包丁の研ぎ方

包丁を研ぐというか、研磨に関することについて。

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1) 研磨する材質の硬度

以下はおよその硬度。http://www.toishi.info/metal/hardness.html から引用。

材質硬度[HV]説明
アルミ合金45~50
チタン合金110~150
炭素鋼鍛鋼品(SF640B)187
炭素工具鋼(SK4)203~286
クロムモリブデン鋼285~415略称はクロモリ。
オーステナイト系ステンレス(SUS304)187代表的なものとして、18-8ステンレス。
フェライト系ステンレス(SUS430)18318クロムステンレス。
マルテンサイト系ステンレス(SUS410)~21013クロムステンレス。SUS420の焼入れ前。
マルテンサイト系ステンレス(SUS420)24713クロム高炭素。主に刃物用。J1とJ2が存在する。
マルテンサイト系ステンレス(SUS440C)61518クロム高炭素。
ジルコニア700~900包丁で使用されているであろうファインセラミックス。
超硬合金1700~2050主成分は炭化タングステンとコバルト。商標ではタンガロイが有名。

一般的なステンレスの種類については、以下を参照。

代表的なステンレスの特性については、以下を参照。

刃物に使用される金属という観点では、以下を参照したほうがよい。

X50CrMoV15はスウェーデンのサンドビック(Sandvik)社製モリブデンバナジウム鋼であり、IKEAで「モリブデンバナジウム製」と表記されている包丁に使用されている。

包丁に関しては、以下のようである。

分類ロックウェル硬さ(HRC)ビッカース硬さ[HV]特記事項
日本の一般的な金属製包丁52~59550~680 
海外の一般的な金属製包丁46~56460~615 
貝印の高級な包丁58~63653~772ダマスカスの刃先であるV金10号は、HRC58~62。
ツヴィリングの金属製包丁57~67633~900SPECIAL FORMULA STEELは、HRC57。
IKEAのモリブデンバナジウム包丁54~56577~613 

 

「ステンレス刃物鋼」という表記の場合、マルテンサイト系ステンレスが使用されていると推測できるが、そのうちのどれが使用されているかは特定できない。

包丁(ナイフ)の刃を受ける対象が一般的な木製やプラスチック製のまな板であれば、まな板が負ける(傷つく)。しかし、対象が陶器製の皿の場合、陶器のモース硬度は5~6であり、HRC40.8~55.2と換算でき、ビッカース硬さでは390~600となる。このため、ただ「ステンレス」と記載されたステンレス(オーテスナイト系ステンレス)では、陶器に接触することで容易に刃が鈍ると考えられる。このため、刃の耐久度を要求する場合は、少なくともステンレス刃物鋼(マルテンサイト系ステンレス)を選択する必要がある。

包丁を研ぐ観点で考える場合は、HRC63(HV772)、修正モース硬度では8をあたりまでを研ぐ対象として捉えればよさそうであり、シリカ系の研磨剤でもどうにかなりそうな印象である。

板状の人工砥石はセラミックスを固めたものであり、溶融アルミナを使用している場合が多いので、金属製の包丁には問題なく使用できる。

シャプトンの「刃の黒幕」で、セラミックス製包丁が研げるという話がないわけではないが、あまり期待しないほうがよい。

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2) 研磨材の種類

研磨する材質に対して選択する研磨材が異なる。

硬度は http://www.3sho.co.jp/category/blast/polishing/ceramic から引用。

研磨材硬度[HV]修正モース硬度研磨する材質説明
ダイヤモンド7000~1500015超硬合金, ステンレス, ファインセラミックス高価。鉄に使用できない。
立方晶窒化ホウ素(cBN)6630-超硬合金, 鉄, 鋼, ステンレス, ファインセラミックスダイヤモンドに次ぐ硬度で、ダイヤモンド並に高価。鉄にも使用できる。
炭化ホウ素387614超硬合金, ステンレス, ファインセラミックス一般には流通しておらず、流通していても高価。鉄に使用できない。
黒色炭化ケイ素(カーボランダム)2400~250013ステンレス, セラミックス主に、アルミなどの非鉄金属に使用される。緑色よりも粒度を細かく揃えることができる。鉄に使用できない。
緑色炭化ケイ素2400~250013ステンレス, セラミックス主に、ガラスや石材に使用される。黒色より炭化ケイ素の純度が高くて硬度も高いが、脆くて粒度を細かく揃えることができない。鉄に使用できない。黒色より高価。
褐色アルミナ(アランダム)2100~230012鉄, 鋼, ステンレス, セラミックス褐色は酸化チタン由来。白色よりも幾分か強靭で再利用が可能だが、粒度がばらつきやすい。
白色アルミナ2100~230012鉄, 鋼, ステンレス, セラミックス褐色と比較して、硬いが脆い。粒度を揃えやすいため、荒削り(ラッピング)でも使用される。褐色より高価。
酸化クロム(III)-8~8.5鉄, 鋼, ステンレスビリジアンの原料。脆くてすぐに粉末になるため、硬さはモース硬度でしか表現できない。
二酸化ケイ素(シリカ)7808鉄, 鋼, ステンレス天然物では水晶や石英。分子構造で硬さが異なる。
酸化ジルコニウム(ジルコニア)700~9006~7鉄, 鋼, ステンレス, ガラス, 樹脂強靭で、再利用しやすい。酸化セリウムの代替品としても使用される。
酸化セリウム(IV)(セリア)-6ガラス, 半導体ガラス磨きにおいて、ベンガラを「紅」と称しているのに対して「白紅」。中国製がほとんどで、価格が高騰している。
酸化鉄(III)(ベンガラ)-6ガラス漢字では弁柄。いわゆる赤錆。現在はあまり使用されていない。

砥石や砥粒を購入する際、砥材が記号で表記されていることがある。
以下に人工砥石に使用される砥粒の記号表現を列挙する。

名称記号色調用途
褐色アルミナA褐色一般鋼材料自由研削, 生鋼材精密研削
解砕型アルミナHA灰白色合金鋼, 工具鋼, 焼入鋼, 精密研削
淡紅色アルミナPA桃色合金鋼, 工具鋼, 焼入鋼, 精密研削
白色アルミナWA白色合金鋼, 工具鋼, 焼入鋼材, 精密研削
ジルコニアZ白色高炭素鋼・合金鋼ステンレス研磨
ジルコニアアルミナAZ灰色鋼材のきず取り, バリ取り, 切断
黒色炭化ケイ素C黒色非鉄・非金属研削, 精密研削
緑色炭化ケイ素GC緑色超合金研削

参考:

包丁を研ぐ際に使用されることがあるスチール棒は、HRC54~62(HV580~740)くらいであり、そもそもの使用目的が包丁の曲がり矯正と脂分落としであるため、日本の包丁に使用しても効果が薄い。セラミックもしくはダイヤモンドシャープナーを使用したほうが刃を研ぐ意味では効果を期待できる。

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3) 番手と粒度の対応

コンパウンドなど、液体やペースト状の研磨剤は番手でなく粒度で表現されていることがほとんどである。

番手(メッシュ)は、1インチ四方を番手数で分割した標準ふるいを用意して、それを通過する粒子がその番手以上のものであるという定義である。 標準ふるいには格子を形成する針金が存在する(平面の理論的な分割ではない)ため、純粋な計算式では番手と粒度を変換できない。

番手(メッシュ)と粒度の対応は、http://www.saint-gobain.co.jp/sites/default/files/download/pdf/HighPerformanceCeramics_Grain_Size_Standard_Saint-Gobain.pdf の平均径から引用。

番手(メッシュ)粒度[μm]代表的な製品
24057 
 50Holts ラビングコンパウンド 粗目
28048 
32040 
36035 
40030 
50025 
60020 
70017 
 15ピカール ラビングコンパウンド
80014 
100011.5 
 10ピカールネリ
12009.5 
15008 
 7Holts リキッドコンパウンド 細目
20006.7 
25005.5 
 599工房 液体コンパウンド3000
300043M コンパウンド ハード1-L
40003ピカール液体
600023M コンパウンド ハード2-L, Holts ラビングコンパウンド 細目
80001.2 
 1Holts リキッドコンパウンド 極細
 ~199工房 液体コンパウンド9800 ※1
 0.7WILLSON 超微粒子コンパウンド ホワイト車用
100000.5WILLSON 超微粒子コンパウンド ダーク&メタリック車用
150000.3 
 0.2Holts スーパーファインコンパウンド
200000.012ハセガワセラミックコンパウンド

※1 「99工房 液体コンパウンド」は、9800相当と思われる。

ピカール液体の研磨剤は砕けていく特性があるため、4000番よりも細かい仕上がりを期待できる。

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4) バフによる研磨で使用する研磨剤

バフによる研磨では、コンパウンドも使用できるが、以下を使用することが多い。

俗称成分粒度[μm]番手用途
青棒酸化クロム53000鏡面仕上げ
白棒酸化アルミニウム(白色アルミナ)151200中みがき〜仕上げ
赤棒二酸化ケイ素(シリカ, トリポリ)もしくは酸化鉄(ベンガラ)5030荒削り

 

上記の粒度と番手は目安であり、各メーカーにより異なる。メーカーが提示しているステンレスの仕上がりを参照して、おおよその粒度を推測することになる。

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5) 番手による砥石の表現

砥石は、番手によって表現が変わる。

表現番手説明
荒砥80~6002桁のものは、砥石の面直し用。
中砥700~2000日常用途。
仕上砥3000~仕上げというか、磨き用。

 

ツヴィリングが販売しているペア砥石の構成が250, 1000, 3000, 8000なので、この組み合わせを用意できていればよいように思える。

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6) 天然砥石の種類

現在世の中に流通しているのは、主に酸化アルミナを焼成した人造砥石だが、天然砥石も入手できなくはない。

人造砥石は使用している粒子によって番手が表現できるが、天然砥石は材質や組成によるところが大きく、同じ産地のものであっても同様の使用感にならない。
また、天然砥石は、研いでいる最中に砥粒が砕けていく性質があるため、やはり番手による表現はできない。

なお、天然砥石の名称を付けている人造砥石が存在するので、それが本当に天然砥石かどうかを判別する必要がある。

以下に、2019年現在でも入手できなくはない天然砥石を列挙する。

用途名称
荒砥大村砥
中砥五十嵐砥, 天草砥, 中名倉砥
仕上砥石丹波青砥, 合砥
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7) 包丁の材質別 砥石の選択

包丁の材質によって、砥石の選択が異なる。

材質砥石(人工 / 天然)電動簡易シャープナーダイヤモンドシャープナー
ステンレス
チタン×
セラミックス×××

○:研げる △:適さない ×:使えない

7.1) 鋼鉄製包丁に関する特記事項

鋼鉄製包丁を研ぐ頻度は、最低でも2週間/回とされている。

鋼鉄製包丁と表現されるものとしては、全体が鋼鉄製のものと、刃先のみが鋼鉄製(割込)のものが存在する。砥石で研ぐことを目的とした場合は、どちらも扱いは変わらない。

鋼鉄製包丁には、高速回転するダイヤモンド砥石を使用してはならない。ダイヤモンドは炭素の結晶であり、鉄とダイヤモンドが高温で接触すると、鉄への炭素の拡散が発生して、ダイヤモンド砥石が急速に摩耗すると同時に鉄の特性も変化する。

ダイヤモンドと同様に、炭化物も高温になりえる状況で研ぐのに使用してはならない。

鋼鉄は錆びやすいため、研いだ直後に水気を取り、必要ならば錆止め油を塗布する。

7.2) ステンレス製包丁に関する特記事項

ステンレス製包丁を研ぐ頻度は、最低でも1ヶ月/回とされている。

ステンレス製包丁と表現されるものにはいくつか種類が存在するが、研ぐことを主眼とした場合は、特に区別する必要はないようである。

  • ステンレス刃物鋼
  • ハイカーボンステンレス
  • モリブデンバナジウム鋼

ステンレスはクロムが添加されており、これが不導体とるために錆びにくくなるが、刃物鋼は炭素分が多く、磁石に付くため、刃物鋼でないステンレスと比較して錆びやすい。このため、水気の処置は必要である。

7.3) チタン製包丁に関する特記事項

チタン製包丁は他の包丁と比較して柔らかいため、以下に注意して研ぐ必要がある。

  • 荒砥は不要。中砥(1200番より上)で研ぐ。
  • 反り返りやすいため、研ぐ際には力をかけない。

チタンは、そもそもステンレスよりも柔らかい金属であるため、研いでも切れ味が目に見えて回復するようなものではないことを留意する。

7.4) セラミックス製包丁に関する特記事項

セラミックス製包丁は金属製と比較して硬いため、使用できる砥石はダイヤモンド砥石に限られる。また、セラミックス自体には弾性がなく、割れる特性があるため、以下に留意する。

  • 研ぎすぎ厳禁。半年に1回くらいで十分。
  • 番手の低い砥石を使用すると、刃先が研いでいるそばから欠けていく。1200番より上を使用するのが推奨。
  • 刃先を薄くするとその分だけ欠けやすくなるため、ある程度の角度をつける。

7.5) ダイヤモンド砥石を使用する場合の留意点

基材に対して、ダイヤモンド粉末が接着されている形状の砥石である場合、刃先の向きと同じ方向に研いではならない。
刃先の向きと逆の方向で研ぐようにする。

刃先の向きと同じ方向で研いだ場合、接着されているダイヤモンド粉末が剥がれる恐れがある。

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8) 刃先の角度

刃物と、その刃物で切断する対象によって、付けるべき刃先の角度が変わってくる。

一般に、刃先の角度を鋭角にすればするほど切れ味が増すが、刃先の耐久性が落ちていき、切れなくなるのが早くなる。

少なくとも、トマトの皮が簡単に切れる包丁でカボチャを切ろうとするものではない。

角度用途あるいは形状
~20度キッチンナイフ, カミソリ, フィッシングナイフ, フィレナイフ
20~25度ハンティングナィフ, キャンピングナイフ
30度~ブッシュナイフ, サバイバルナイフ, アックス

参照元:http://www.ameyoko.net/marukin/html/meinte/howto1.htmll

一般に、家庭用方法は25~30度の刃が付けられている。

和包丁などの片面のみを研ぐ刃物の場合は、裏側を基準にした角度で砥石を当てることで、期待する刃先の角度を付けることができる。

洋包丁などの両面を研ぐ刃物の場合は、最終的に形成される刃先の角度を想定する必要がある。概念的には、30度の刃を付けたい場合は、両面を15度で研いでいくことになる。

身が厚い包丁や、峰から刃先までで角度に段差が付いている包丁の場合、付けたい刃先の角度で砥石を当てても、刃先が形成できない場合がある。この場合は、形成したい角度の刃先が形成できるまで削り落としていくことになる。電動砥石などを使用することを考えたほうがよい。

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9) 刃先の評価

刃物を研ぐ際には、研ぐ前と研いだ後で、刃先を評価する必要がある。

研ぐ前に評価する理由には、以下に挙げるものがある。

  • 刃が欠けている部分がないかを確認する
  • どれくらいの砥石から使えばよいかの判断基準にする

また、研いだ後に評価する理由には、以下にあげるものがある。

  • 刃の欠けが解消できているかを確認する
  • 期待する切れ味が実現できているかを確認する

実際には、刃先の切れ味評価とは別に、刃先が平面に満遍なく当たることも確認する必要がある。
平面に触れない刃先の部分が存在する場合、触れない部分以外を削ることで、刃先の線を修正する。

9.1) 評価方法

刃先を評価する方法としては、以下のようなものがある。

  • 目で見て、刃先にくぼみがないかを確認する
  • 目で見て、刃先の山(稜線?)がはっきりと見えないことを確認する
    → 稜線が見えるのは、刃先が潰れていることを示している。
  • 刃先に爪を当てて、引っかかりがあることを確認する
  • 人参を手に持って、空中で茎の部分を切る
    ※日本では、人参の茎は付いた状態で売られていないので、大根で代用かも。
  • トマトの皮を切る
  • コピー用紙を手に持ち、空中で断ち切る
  • 新聞紙を手に持ち、空中で断ち切る
  • 玉ねぎを茶色い外皮ごと切る
  • カラー印刷された雑誌の紙を丸めて持ち、空中でそぎ切りする
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10) 参考:ファインセラミックスの硬度

京セラのサイト(https://www.kyocera.co.jp/fcworld/charact/strong/hardness.html)から引用。

名称ビッカース硬さ[GPa]ビッカース硬さ[HV]主な用途
炭化ケイ素22.02244耐熱材料
アルミナ15.71601研磨材, 耐火物
窒化ケイ素13.91417エンジン部材
ジルコニア12.31254刃物
ステンレス鋼5.0510-

 

ビッカース硬さの[GPa]から[HV]への変換は、102の乗算としている。

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11) 参考:樹脂の硬さ

参照文献は以下。

樹脂と金属の硬さ比較は数値にするのは難しいらしい。

樹脂の硬さをロックウェル硬さで表記する際は、頭文字としてスケールを示す「R」「L」「M」が付き、Mがいちばん硬い。
数値の上限は130となる。

測定値の適正範囲は50~115で、この範囲外になる場合にはスケールを変更すべきとなっている。

樹脂の硬さに関する雑多な情報を以下に列挙しておく。

  • メラミン樹脂(メラミン-ホルムアルデヒド樹脂)のモース硬度は4相当
  • メラミン樹脂のロックウェル硬さは、家庭に存在する樹脂の中ではいちばん高い
  • メラミン樹脂はアルミニウムより硬く、アルマイト皮膜と同じくらいの硬さであるため、アルミ系の清掃に使用すべきでない
  • メラミン樹脂は、光沢処理された鉄やステンレスの清掃に使用すべきでない
  • FRP(繊維強化プラスチック)はそれほど硬くなく、メラミン樹脂で傷が付く
  • ポリカーボネート樹脂のモース硬度は3相当で、ビッカース硬さは100
  • ポリカーボネート樹脂よりPET樹脂のほうが硬いが、衝撃耐性はポリカーボネート樹脂のほうが勝る
  • 人工大理石はアクリルもしくはポリエステル系の樹脂で、人造大理石は樹脂が混入するするものがあるが、質感は鉱物である別物
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12) 参考:硬さ変換表

硬さ変換表に別記。

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